『ザ・コーブ』を考える

和歌山県太地町のイルカ漁を隠し撮りしたドキュメンタリー映画、『ザ・コーブ』がアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した。
内容は、イルカ漁を批判する内容だという。
私はこの話を聞いて、いくつか疑問に思った。その疑問を率直に述べてみたい。
イルカと牛はどう違うのか?
まず、この「イルカ漁」について。
太地町の猟師達は、一部のイルカを動物園へ提供し、それ以外をクジラ肉として売っているという。『ザ・コープ』の制作者は、このようなイルカ漁を「イルカを虐殺している」と表現した。欧米各国でも絶賛されており、障害にも負けずによく作ったと賞賛されているという。
ここで感じる問題点は、制作者が環境保護団体の一因であるという点である。欧米人(白人文化圏)は、イルカをクジラと同様に欧米人が「知性ある動物」として保護を訴えている動物。それらを護るべきという環境保護団体の考えには、「イルカやクジラを殺すものは悪である」というバイアス(偏り)があることは否定の余地がない。事実、『ザ・コーブ』には伝統的な『イルカ漁』についての説明もなかったという。両者の立場を公平に伝えていない時点で、ドキュメンタリーとしては失格している。
彼らは、日本の伝統である『イルカ漁』を批判し、そこにいる猟師を批判しているのである。その結果、日本は『イルカを殺す文化を持つ国』として批判される。特に、太地町の人々は批判される。彼らは、イルカやクジラを殺す映像のショッキングさばかりをあおり立て、太地町の400年続いた伝統と、そこに住み生計を立てている猟師の生活を貶めているのである。(彼らにその気持ちがなかったとしても、結果としてそうなっている)。
ならば、牛はどうなのか?
欧米文化は、牛や豚を肉として大量に生みだし、殺している。イルカを殺すこととどう違うのか?
より栄養がつくからと、同族の肉を『肉骨粉』として食べさせていたことはどうなるのか? そのような暴虐が、狂牛病の温床になったのに……
太地町の人々が被った不利益
次に、隠し撮りについて。
製作陣は、映画を撮る際に何度も禁止区域に入り、違法な撮影を繰り返した。ルイ・サホイヤス監督は、「許可なく潜入したのは事実で、次に訪日したら不法侵入や業務妨害で訴追されるかもしれない」とコメントしている。彼らは、自分たちの主張を伝えるために、自覚的に、故意に法を犯しているのである。
この行動が生み出す問題は、二つ考えられる。
第一に、太地町の猟師達の利益を侵している。もし、この違法行為によって作られた映画の影響で、イルカ肉の受注が少なくなったら……収入が減ってしまったら……。猟師は、船や網などの維持費もかかり、高齢化と後継者問題など苦しい立場にある。この映画の影響は、彼らの生活を脅かす可能性があるのである。
第二に、太地町の猟師達の肖像権を侵している。太地町の猟師の人々は映画の撮影を許可していない。その彼らの姿を不当に撮影し、諸悪の権化として放送する行為は、太地町の猟師とそれに関わる人々の名誉を傷つける、明かな不法行為であることは、明白である。
つまり、『ザ・コーブ』撮影による不法行為によって、太地町の猟師達は職業的にも社会的にも、多大な不利益を被ったのである。
イルカを含む捕鯨問題は、文化の違いによる問題である。文化の違いを認めず、このような違法行為を行った制作スタッフ。彼らの行動に、正当性はあるのだろうか?
アカデミー賞の価値は……
最後に、アカデミー賞について。
先に述べたように、この『ザ・コーブ』は太地町の伝統である『イルカ漁』のことを十分に説明しておらず、環境保護団体が警察や地元民の目をかいくぐってイルカ漁の光景を撮影することに終始している。「環境保護団体の視点」しか反映されていないということである。
ドキュメンタリーは、対立する問題があった場合、両者の立場を公平に描くべきである。その姿勢が、このドキュメンタリー映画からは感じられない。つまり、ドキュメンタリーとしては二流なのである。
しかも、真実を明らかにするためとは言え、映画の制作スタッフは不法行為を侵している。偏向報道と不法行為。これでアカデミー賞の一角に輝くことができるのであれば、アカデミー賞には何の価値があるのだろうか?
ザ・コーブの良い点と問題点
『ザ・コーブ』にも見るべき点はある、と私は考える。
それは、生物濃縮によってイルカの体内には水銀が蓄積している、という問題。もしこれは本当であれば、重大な問題である。なぜなら、水銀は水俣病を起こしたこともある猛毒であるから。イルカ以外の魚でも水銀の生物濃縮が起こっている可能性があるから。是非とも真実を明らかにしていただきたい。日本政府は、国民に対して大きな説明責任があるだろう。
その意味で、たしかに、『ザ・コーブ』は見るべき点はある。しかし、上記の問題点によって、その主張は日本人に対して説得力を失っている。日本人に伝えるのであれば、両者の立場を公平に描いた上での問題提起をするべきであろう。
このような独善的な主張の仕方をしている限り、「どうせ白人の偏った考えだろ?」と一笑に付され、バカにされるだけである。
総括
以上の点から、『ザ・コーブ』は一種の問題提起をしているものの、非常に偏った思想に基づく映画という印象をぬぐい去ることができない。
この映画のコンセプトが「日本人に真実を伝えること」であれば、両者の立場を公平に描き、水銀中毒の件を明確なデータの裏付けを元に客観的に伝えるべきであった。消費者を守らない政府の問題を、ナショナリズムの問題にすり替えてしまった。
日本のマスコミが、『ザ・コーブ』や制作スタッフにとって不利な情報しか報道していない可能性ももちろん存在する。日本のマスコミは偏向報道が多いとされているためだ。『ザ・コーブ』の主張にも、耳を傾ける必要がある。
最後に
外国では、制作スタッフを英雄視し、太地町の猟師達や日本を糾弾しているという。彼らにとっては、「太地町の猟師達=イルカを殺す悪魔」の悪事を明らかにした英雄なのであろう。私には、映画スタッフもそれを賞賛する人々も、自らの価値観に基づいた安っぽいヒロイズムに酔っているようにしか見えない。
他人のふり見て我がふりなおせ。
私はこのようなことをしないよう、自分の行動を戒めていきたい。
参考資料)
http://diving-commu.jp/seanews/item_2749.html
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/100308/tnr1003081311008-n1.htm
http://blog.livedoor.jp/joe_tex/archives/65260477.html
http://news.livedoor.com/article/detail/4409553/
http://blog.yoshiomaki.com/2009/08/the-cove-9cb9.html
http://happyneko.jugem.jp/?eid=579
2011/03/04 レイアウト修正
コメント
ザ・コープ
Re: ザ・コープ
初めまして、管理人の純川です。
コメントありがとうございます!
この問題で一番つらい立場にあるのは、間違いなく太地町の人たちです。
映画スタッフは、自分たちの行動がどうであったのか、きちんと見つめ直して欲しいと思います。
コメントありがとうございます!
この問題で一番つらい立場にあるのは、間違いなく太地町の人たちです。
映画スタッフは、自分たちの行動がどうであったのか、きちんと見つめ直して欲しいと思います。
No title
水銀のデータは公表されていますよ。
てか、人体に影響を及ぼすほどの水銀がイルカやクジラにあるなら、まずイルカやクジラに異常があるはずでしょw
てか、人体に影響を及ぼすほどの水銀がイルカやクジラにあるなら、まずイルカやクジラに異常があるはずでしょw
Re: No title
Re: No title
はじめまして。
コメントが遅くなり申し訳ありません。
> 水銀のデータは公表されていますよ。
どこの機関のデータでしょうか?
もしよろしければ教えていただきたいと思います。
> てか、人体に影響を及ぼすほどの水銀がイルカやクジラにあるなら、まずイルカやクジラに異常があるはずでしょw
‘異常’というのが曖昧な表現なので、何とも言いづらいですが……
人体に影響を及ぼすほどの水銀を有しているイルカやクジラが、必ずしも死んだり異変が起こったりしないと思います。
例え水銀が微量であっても、肉として食べ続けることで体内に蓄積していきますから、イルカやクジラにとっては許容量なのかも知れません。(この辺は専門家でない限り断言できませんが……)
今回の場合、子どもの給食に使われていた点が問題だと考えます。
子どもの場合、化学物質に対する抵抗力が弱いため、微量な量でも問題となるからです(煙草が良い例ですね)。
赤色2号の例にもあるように、経済上の要請や国の威信のために有害物質であっても食品添加物として認可している現実があります。
水銀汚染が南極で行われており、真偽が明かでない(当事者によって見解が食い違っている)以上、この『ザ・コーブ』を契機に、調査が行われるといいな、と考えております。
クジラ肉、好きなんで(笑)
しかし、ヒロイズムに酔いしれた制作スタッフを許したり認めたりする気は毛頭ありません。このような暴挙を認めてはならない、と私は考えています。
・太地町の人々に謝罪し、損害賠償を支払い、彼らの名誉を回復すること
・日本の法の裁きを受けること
・アカデミー賞の取り消し
・監督、スポンサーをはじめとする責任者の社会的責任の追及
以上の4点を行って不法行為の責任を取らない限り、彼らは「ヒロイズムに酔った幼稚な理想主義者」でしかなく、自らの意見を主張する資格はないと考えています。
長文になってしまい申し訳ありません。
ではでは☆
はじめまして。
コメントが遅くなり申し訳ありません。
> 水銀のデータは公表されていますよ。
どこの機関のデータでしょうか?
もしよろしければ教えていただきたいと思います。
> てか、人体に影響を及ぼすほどの水銀がイルカやクジラにあるなら、まずイルカやクジラに異常があるはずでしょw
‘異常’というのが曖昧な表現なので、何とも言いづらいですが……
人体に影響を及ぼすほどの水銀を有しているイルカやクジラが、必ずしも死んだり異変が起こったりしないと思います。
例え水銀が微量であっても、肉として食べ続けることで体内に蓄積していきますから、イルカやクジラにとっては許容量なのかも知れません。(この辺は専門家でない限り断言できませんが……)
今回の場合、子どもの給食に使われていた点が問題だと考えます。
子どもの場合、化学物質に対する抵抗力が弱いため、微量な量でも問題となるからです(煙草が良い例ですね)。
赤色2号の例にもあるように、経済上の要請や国の威信のために有害物質であっても食品添加物として認可している現実があります。
水銀汚染が南極で行われており、真偽が明かでない(当事者によって見解が食い違っている)以上、この『ザ・コーブ』を契機に、調査が行われるといいな、と考えております。
クジラ肉、好きなんで(笑)
しかし、ヒロイズムに酔いしれた制作スタッフを許したり認めたりする気は毛頭ありません。このような暴挙を認めてはならない、と私は考えています。
・太地町の人々に謝罪し、損害賠償を支払い、彼らの名誉を回復すること
・日本の法の裁きを受けること
・アカデミー賞の取り消し
・監督、スポンサーをはじめとする責任者の社会的責任の追及
以上の4点を行って不法行為の責任を取らない限り、彼らは「ヒロイズムに酔った幼稚な理想主義者」でしかなく、自らの意見を主張する資格はないと考えています。
長文になってしまい申し訳ありません。
ではでは☆
No title
初めまして。
良く、クジラやイルカは魚じゃない!殺さないで!!
などと言うキャッチフレーズを耳にしますが、どちらも同じ命。
別に、虐待をするために取っているのではなく食べるために獲っていることの何が悪いのか?
絶滅危惧種ならば、話は変わってきますが。。。
良く分かりません。
良く、クジラやイルカは魚じゃない!殺さないで!!
などと言うキャッチフレーズを耳にしますが、どちらも同じ命。
別に、虐待をするために取っているのではなく食べるために獲っていることの何が悪いのか?
絶滅危惧種ならば、話は変わってきますが。。。
良く分かりません。
Re: No title
初めまして。
コメントありがとうございます。
ほんと、どうしてなのでしょうかねぇ……
同じ命なのに、文化が違うだけなのに、非難をしたくなる理由が分かりません。
ちなみに、欧米人にとって豚や牛を食べることに抵抗感がないのは、聖書で「神からのおくりもの」として定義されているということを聞いたことがあります。
コーヴをつくった人達がどうであれ、欧米圏で反響を呼んだ理由は、このような宗教的な背景があるのかもしれませんね。
コメントありがとうございます。
ほんと、どうしてなのでしょうかねぇ……
同じ命なのに、文化が違うだけなのに、非難をしたくなる理由が分かりません。
ちなみに、欧米人にとって豚や牛を食べることに抵抗感がないのは、聖書で「神からのおくりもの」として定義されているということを聞いたことがあります。
コーヴをつくった人達がどうであれ、欧米圏で反響を呼んだ理由は、このような宗教的な背景があるのかもしれませんね。
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ザ・コープの記事全く同感です。